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税理士コラム

遺産分割方法の検討

平成29年7月3日に国税庁が、平成29年分の路線価を公表しました。
都道府県庁所在都市の最高路線価の全国一位は、東京都中央区銀座の鳩居堂前で、なんと1㎡あたり4,032万円、これは、バブル期に記録した最高額を更新したようです。
全国的に、3年後の東京オリンピックの影響もあると思いますが、対前年路線価が27都市で上昇しております。

このような路線価上昇の状況下で、自宅が、唯一の相続財産であった場合、「近々、もし相続が発生したら、相続人でどうやって分けるの?遺言書はあるの?税金は大丈夫なの?」など、不安を抱かれる方もおられるでしょう。
そこで、今回は、相続財産が自宅のみの場合は、小規模宅地の特例適用により、一般的に、相続税の申告を行えば、課税されないことも多いと思いますので、遺言書がなかった場合の遺産分割方法について、事例を踏まえて検討してみます。

事例)
被相続人は母で、相続人は母と同居の長男、別居の次男、三男の3兄弟で、遺産は自宅の土地建物(時価4,000万円、取得費1,000万円、所有期間5年超)、預金(800万円)です。また、母の遺産総額は、相続税の基礎控除内(3,000万円+600万円×3人=4,800万円)とします。

まず、遺産分割には、以下の3つの方法があります。

1、現物分割
遺産として建物、土地、預金を、相続人がそれぞれ建物は長男、土地は次男、預金は三男と相続します。
単純が故に、この方法によると相続人間の遺産の価値に格差が生じますし、後々、相続人間の権利関係を複雑にしてしまう結果となります。
2、換価分割
まず、全ての遺産を換金します。そして、その金銭を相続人で分配します。
この方法によると、全ての相続人に平等に金銭という形で分配が行われます。
ただし、この場合は、遺産を処分し換金しますので、処分費用や譲渡所得税などを考慮する必要があります。
3、代償分割
遺産の自宅の土地建物(時価4,000万円)を長男が取得する代わりに、次男に1,600万円、三男に800万円支払い、残った遺産の預金800万円を三男が相続すれば、相続人全員が1,600万円ずつで平等になります。
このように、長男が相続分以上の財産を取得する代償として他の相続人に、自己の財産(金銭等)を交付する方法です。
しかし、自己の金銭が2,400万円もない場合には、結果的に長男は、自宅の土地建物を相続した後、処分し換金して、他の相続人に交付することになり、上記2同様、処分費用や譲渡所得税などを考慮する必要がでてきます。

そこで、換価分割と代償分割の違いを上記事例に基づき、自宅を売ることを前提として、税務的な検討をします。

Ⅰ、換価分割~全員で自宅を相続し、売却して、金銭で平等に分配する場合
相続人が遺産分割協議により、全ての遺産を持分3分の1ずつで相続し、自宅を相続登記したうえで、それぞれ協力して売却します。
4,000万円で売却し(今回は、譲渡費用は考慮せず0円、以下同じ)、遺産の預金800万円を合わせると、相続人は、それぞれ1,600万円の金銭の分配を受けることができます。
しかし、この自宅売却により譲渡益(=譲渡価額-(取得費+譲渡費用))が発生した場合、この譲渡益(長期譲渡所得の金額)に対して、相続人はそれぞれ譲渡所得の申告をしなければなりません。
上記事例では、取得費及び譲渡費用の合計は1,000万円ですので、相続人は、それぞれ売却により1,000万円ずつの譲渡益((4,000万-1,000万円)×1/3)が発生します。
母と同居していた長男は、居住用財産を売却したことになりますので、居住用財産の3,000万円の特別控除を受けることができるため、譲渡所得税は発生しません。
一方の別居の次男、三男は、居住用財産には該当しませんので、原則どおり、譲渡益1,000万円に対して20.315%(長期譲渡の所得税及び住民税率)の税金を支払う必要があります。
以上のように、遺産の全てを換金して、金銭で平等に分配する換価分割も、結果的に、相続人の個別事情の違いにより実質的な手取額に差が生じました。

Ⅱ、代償分割~長男が単独で自宅を相続し、売却して、売却代金から代償金を支払う場合
相続人が遺産分割協議により、長男は自宅を単独で相続し、その代償として、次男に1,600万円、三男に800万円を支払い、預金800万円は三男が相続する旨の取り決めをします。
長男はこの遺産分割協議書に基づき本人名義に相続登記をしたうえで、売却します。
売却に伴い発生する譲渡益は4,000万-1,000万円=3,000万円ですが、上記Ⅰのとおり、居住用財産の3,000万円の特別控除を受けることができるため、譲渡所得税は発生しません。
長男は、4,000万円の中から次男に1,600万円、三男に800万円の代償金を支払うことで、相続人は譲渡所得税を支払うことなく、金銭で平等に分配できたことになります。

今回の事例は、自宅を売ることを前提とした検証のため、居住用財産の譲渡所得の特例計算を最大限に有効に利用できるか否かで、手取額に大きな違いが出ました。
しかし、遺産が居住用財産や相続空き家以外の財産となると、換価分割でも、代償分割でも手取額に差は生じないでしょう。

注意すべきは、相続人の個別事情の違い(例えば、社会保険加入者と国民健康保険加入者では、翌年の保険料負担が後者の場合、大きく増加することもありますし、相続税の基礎控除を遺産総額が超えている場合の小規模宅地の特例適用方法など)をしっかりと把握して、検討することが重要ですね。